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2019.06.30

情熱と才能を解き放て!(ヤフー株式会社の事例)

『幸せな職場の経営学』(小学館、2019年)に掲載したヤフー株式会社の事例の一部に加筆して掲載します。

「情熱と才能を解き放て!」は、元社長・元会長の宮坂さんのフレーズです。宮坂さんが行なった、ヤフー株式会社の幸せな取り組みを紹介しましょう。

人事制度の工夫

【ワン・オン・ワンミーティング】

週に1度、30分程度、部下と上司が1対1で対話する制度です。

2012年の新経営体制移行時に、社員の「才能と情熱を解き放つ」というコンセプトのもと、社員一人ひとりの成長を戦略的に促す「人財開発企業になる」という方針を掲げました。また、ヤフーが根底に置いている目標である「経験学習を通して成長する」ためには、自分自身の振り返りや内省だけでなく、業務内容を把握しており、客観的に当事者を観察できる立場である上司との対話は欠かせません。
このために導入されたのが、上司と部下のワン・オン・ワンミーティングです。
ワン・オン・ワンミーティングでは、上司は部下の話を絶対に否定せず、最後まで聞くことが求められます。この際、上司は部下に自分の考えを押し付けず、ひたすら部下に質問を繰り返して部下が自分の考えをまとめる手伝いをします。
宮坂さんご自身もこのワン・オン・ワンミーティングの効果は認められていますが、蛯谷敏氏の『爆速経営 新生ヤフーの500日』(日経BP社)によれば、現場でも人間関係の醸成に大きな効果が得られているようです。
どんなに業務が多忙でも、このワン・オン・ワンミーティングを週に1回、実施することによって、30分という短い時間でも、定期的に部下と顔を合わせていると、何となく考えが理解できるようになる」とか「それとなく敬遠していた部下とも話せるようになった」という声が上がっています。

【ジョブチェン】

ヤフーのなかで新たな経験にチャレンジしたい場合に、その希望を自己申告できる異動制度です。原則として同じ部署に3年勤めている社員は、自分が希望する部署に異動できます。この制度によって、誰もがやりたいことにチャレンジし、成長や自己実現につなげられる機会を提供しています。

【どこでもオフィス】

連絡が可能であれば、誰でも、どんな場所でも働くことができる制度です。
日常とは異なる環境に身を置くことで、アイデアの創出や業務効率の向上を狙っています。それに加えて、通勤による疲労や、ワークライフバランスの改善や育児・介護の負担軽減といった効果も期待できます。

【課題解決休暇】

ヤフーのミッションは「課題解決エンジン」。情報技術(IT)で人々や社会の課題を解決するということです。それを実行するうえで、業務外においても多様な課題解決を経験してほしいという想いから、2013年4月より年度で3日を上限とし、業務以外の時間に誰かの課題を解決するために使える有給休暇を開始しています(正社員が対象)。

【サバティカル休暇】

「あらゆる人が、その人の人生の社長であるべき」という考えのもと、自分のキャリアを見つめ直す機会として、勤続10年以上の正社員を対象に最短2ヶ月、最長3カ月連続で取得可能な休暇制度です(取得は1回のみ)。休暇期間中、サバティカル休暇の支援金として基準給与1か月分を支給します。

【えらべる勤務制度】

育児や看護、介護などを行う社員を対象に、週4日勤務(週休3日)などの勤務形態を選択できる「えらべる勤務制度」を開始しました(希望者のみ)。

オフィスの様子

2016年10月に開設された紀尾井町オフィスには、イノベーションを生み出す「情報の交差点」を創出するための施策がいくつも盛り込まれています。

【フリーアドレス】

社員同士のコミュニケーション向上とアイデア創出を促進するため、あえて机をジグザグに配置した「フリーアドレス」を導入。社員は、社内のどのフロアでも業務を行うことができます。
旧オフィスで行った社内調査では、「机をジグザグに配置したフリーアドレス」にすることで、従来の配置と比べて、ほかの社員との接点が増えるなど、コミュニケーション量が約2倍増加することがわかりました。
そのため、新本社ではフリーアドレスを導入し、社員同士のコミュニケーションや交流を促し、情報が行き交う「情報の交差点」を作ることで、新たなアイデアが創出されやすい環境へと配慮しています。

【LODGE(ロッジ)】

紀尾井町オフィスでは2016年11月より、社員はもちろん、社外の人も利用可能のオープンコラボレーションスペース「LODGE」を開始しました。イノベーション創出のため、ビルのワンフロアを社外の人たちに解放し、自由に出入りできて仕事やイベントを行えるスペースを設けたのです。また、社員も社外の人も使える社員食堂「BASE」も常設しています。
社外の人も共にLODGEを使うことによって、ヤフーの社員も異なる価値観と接して刺激を受けたり、新たな出会いをしたりすることも多いそうです。

その他の工夫

【Yahoo!アカデミア】

ヤフー株式会社の企業内学校として2014年4月に開校。「次世代リーダーの創出」を設立目的に掲げ、大勢の塾生がリーダーシップや問題解決について学んでいます。
目的は、Yahoo!アカデミアのすべての受講者がリーダーシップを存分に発揮し、社会で輝ける人財になることですが、業務とは直接的には関係のないと思われるような自己成長や自己啓発を支援する取り組みが、社員のモチベーションアップや社内コミュニティの向上、企業文化の育成に一役買っています。

【チーフ・コンディショニング・オフィサー(CCO)】

社員の心と身体の健康増進を推進するための取り組みとして「CCO」を新設し、宮坂さんが2016年9月1日より就任。現在は、代表取締役社長の川邊健太郎氏が担当しています。社員食堂などを活用した健康増進の取組みを行うほか、社員に貸与しているスマートフォンから取得できる「歩数」や「歩行距離」などの健康情報を活用することを検討しているそうです。また、希望する社員には、連携先の医師や管理栄養士を通じた食事指導や運動指導、睡眠の生活指導などを行う「健康増進プログラム」も提供しています。

情熱と才能を解き放て!

このようにざっと挙げただけでも、実に多くの施策が行われていることがわかります。
ちなみに、2012年の新体制からの1年でヤフーは、売上高、営業利益ともに過去最高記録の2ケタ成長を記録し、株価も2倍に上昇。こうした勢いが「爆速経営」と報道され、大きな話題になりました。その後も順調に売り上げを伸ばしており、こうした好調の裏には、社員のやる気と向上心を引き出すための施策の効果があったことは想像に難くないでしょう。
この改革を実行した宮坂さん(ヤフー株式会社元社長・元会長)ご自身は、約6年に渡る社長任期中、どのようなモチベーションで改革を続けられたのでしょうか。
「そもそも、なぜ我々がこうした改革を始めたのかというと、前提としてソフトバンクグループの『デジタル情報革命で人々を幸せに』というビジョンがありました。
当然、それを実現するために我々は働いていますし、事業を進めています。ですから『デジタル情報革命』で人々が不幸せになり、それによって利益を得たとしても、我々はまったく嬉しくありません。
そう考えたとき、ならばそれを担う人たち、つまり社員についてはどうなんだろう? という想いが涌き上りました。働いていて楽しいとか、成長できていると思える人を増やすのも、会社のビジョンを実現するのと同じくらい大切なのではなないだろうかと思い始めたのです。事業成長だけでなく、外からは見えない内側(社内)もしっかり整えていこうと思ったのが、人事制度改革のきっかけですね」(宮坂社長(当時))

4因子の分析をしてみましょう。

  1. アカデミアをやってみよう!(自己実現と成長の因子)
  2. 1on1ミーティングで信頼感のあるつながりを!(つながりと感謝の因子)
  3. 選べる勤務やサバティカルもなんとかなる!(前向きと楽観の因子)
  4. どこでもオフィスやフリーアドレスでありのままに!(独立と自分らしさの因子)

※参考
幸せな職場の経営学
前野隆司著

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